私どもは2008年に、標的miRNAの活性を特異的に阻害するmiRNA阻害ベクター「TuD RNA (Tough Decoy RNA)発現ベクター」の開発に成功しました(図上段)。TuD RNAは独特の二次構造を有しており、4つの機能的構造によって構成されます。さらに、このRNAを、miRNA阻害活性を持つ核酸医薬の開発に結びつけるために、TuD RNAに模した二次構造を有する合成修飾核酸「S-TuD (Synthetic TuD)」(図下段)も開発しています。
TuD/S-TuDが従来のmiRNA阻害法と比べてきわめて高いmiRNA阻害活性を有していることは、欧米の複数の第三者グループによっても示されています。私どもは、悪性腫瘍はもとより、慢性炎症性疾患や神経変性疾患などの炎症疾患の治療にTuD/S-TuDを活用できると考えています。
また、治療法の開発には、疾患に特異的な遺伝子制御ネットワークの解明や、もっとも効果的な標的miRNAの同定が必要です。こうした基礎的な解析のツールとしてもTuD/S-TuD は重要な役割を果たします。
感染や炎症・免疫応答に伴い、宿主細胞内では多くの遺伝子群が誘導されます。その際に、細胞質から核へと移行してもっとも重要な機能を果たす転写因子の一つがnuclear factor kappa B (NF-κB)です。NF-κBは、感染症や炎症性疾患のほか、多くの癌でも恒常的に活性化していることが知られています。活性化したNF-κBは、炎症作用を持つ一群の遺伝子の発現を誘導すると同時に、いくつかのmiRNA遺伝子も誘導します。こうしたmiRNAは、それぞれ一群の抗炎症性遺伝子を抑制して炎症疾患をさらに悪化させます。
NF-κBによる転写活性化にはクロマチン構造変換因子であるSWI/SNF複合体を必要とするような一群の標的遺伝子群があることが知られていますが、その分子機構は明らかにされていませんでした。私どもは、d4ファミリータンパク質に属しdouble PHD finger (DPF)を有するDPF1、DPF2、DPF3a、およびDPF3bが、SWI/SNF複合体とNF-κBダイマーを連結するアダプター分子であることを同定しました。この知見を、これまでにないエピジェネティック制御によるNF-κB阻害剤の開発につなげます。
・コア技術1
Haraguchi T, Nakano H, et al. A potent 2’-O-methylated RNA-based microRNA inhibitor with unique secondary structures. Nucleic Acids Res, 40; e58 (2012)
Haraguchi T, Ozaki Y, and Iba H. Vectors expressing efficient RNA decoys achieve the long-term suppression of specific microRNA activity in mammalian cells. Nucleic Acids Res, 37: e43 (2009)
・コア技術2
Kobayashi K, Hiramatsu H, et al. Tumor suppression via inhibition of SWI/SNF complex-dependent NF-kB activation. Scientific Reports, 7:11772 (2017)
Hiramatsu H, Kobayashi K, et al. The role of the SWI/SNF chromatin remodeling complex in maintaining the stemness of glioma initiating cells. Scientific Reports, 7: 889 (2017)
Ishizaka A, Mizutani T, et al. Double plant homeodomain (PHD) finger proteins DPF3a and -3b are required as transcriptional co-activators in SWI/SNF complex-dependent activation of NF-κB RelA/p50 heterodimer. J Biol Chem, 287:11924-11933 (2012)
Tando T, Ishizaka A, et al. Requiem protein links RelB/p52 and the Brm-type SWI/SNF complex in a non-canonical NFκB pathway. J Biol Chem, 285: 21951-21960 (2010)